父のその後について
昨年の春に特養老人ホームに入所した父のことは、お伝えしました。
1年少し経った今、その後について、ようやく書けるようになりました。
老人ホームに入所したが入院に
父は、自宅では浴槽で滑るのが怖くて、シャワーだけで済ませていました。でも、施設では手厚い介護のもと、週に3回も入浴できます。食事の味が薄いこと以外は満足している様子でした。
面会は2週に1回ほど行っていました。
が、ひと月もしないうちに体調を崩し、入院することになってしまいました。病院側は診察後は戻ってもよい、との判断でしたが、施設側は夜間看護が出来ないからという理由で入院になりました。
父は肺線維症なので、寝ている時は咳がひどく出ます。それで大部屋の他の患者さんに嫌われて、肩身の狭い思いをしていました。また、入れ歯を外すと言葉が聞き取りにくいので、意思疎通には少し根気が必要です。
通常時なら見舞いに行った際に、父の要望を私が伝えていました。でも入院した病院は、コロナ対策で2023年になっても面会できない状態でした。
当初、2週間の予定と言われていたのに、発熱したから退院は延期になる、と施設から電話がありました。入院期間が延びると寝たきりになるんじゃないか、と心配になります。
知らないうちに転院の話が進む
そんなある日、病院から、夜間の痰の吸引が必要なので、その対応ができない施設には戻れない、それで他の長期入院できる病院を探している旨の連絡が来ました。
何がどうなっているのか事情が分かりません。家族には何も知らせずに、施設と病院で話を進めていたのです。
主治医からの説明が欲しいと訴えて、初めて電話をもらい、症状の説明がありました。発熱がある、咳がひどい(いつものことです)、認知機能が下がっている、今は点滴で栄養は取れているが、もう点滴する場所がなくなるので、胃ろうを考えてください、と。
我が家では延命措置はしない方針です。
「点滴を止めるとどうなるんですか?」
「普通は1週間ほど持ちます」
急にそんなことを言われても…。
ちょっとお腹の調子が悪くなっただけなのに、入院させられて、悪化して…。
高齢者あるある、ですが、途方に暮れてしまいます。
こんなことなら、施設へ入るのを止めれば良かった、と何回悔いたことでしょう。
一度、本人の意思を確認したいので、会わせてもらえるようお願いしました。
自宅で看取るという選択
知人に相談したら、そんな病院は良くない、家に引き取ったらどうか、と言われました。
埒が明かない病院に預けて、日々悶々と不安を抱えるよりは、大変だけれど一緒にいた方が良いのではないか、と。
訪問看護と訪問介護、夜間の吸引は病院で教えてもらえば、自宅でも出来そうです。
ひと月ぶりに会った父は、その日が大相撲の何日目かも把握しているほど頭はハッキリしていました。認知機能に関しては、前述したように、聞き取りにくいだけで、忙しいお医者さんや看護師さんには伝わらなかっただけ。全く問題ありませんでした。
「家に帰る?」と聞くと、「そんなことが出来るのか?」と嬉しそう。
自宅での看取りを決めました。
さっそく病院では、訪問看護、訪問介護のスタッフを招集し、打ち合わせが行われました。
私は、退院までの1週間の間に、施設の退所手続き、荷物の引き取り、リース介護ベッドや吸引機などの設置などをして、準備を整えます。
退院して帰宅する
自宅に戻った父は、とても活気に満ちて、前の生活に戻れるような気になったのでしょう。ベッドから降りようとしたり、たくさん喋ったりしていました。
サンドイッチが食べたい、と言うのですが、誤嚥をするから、とゼリーとかアイスクリーム等しかあげられません。今思えば、むせたとしても食べさせてあげれば良かった。
それでも、大好きなお酒はスポンジで飲み、大好きな相撲や野球をテレビで見ていました。
毎朝、夕、看護師さんが来訪し、顔なじみのヘルパーさんがお世話してくれました。
特に看護師さんたちは頼もしく、吸引が下手な私に「難しいですよね、初めは皆そうですよ」、夜中の吸引で寝られないと愚痴ると「お世話する方の身体が一番大切ですから、寝たいときは寝ましょう」と私に寄り添ってくれました。
最期を迎える
人は死に近づくと食べなくなるそうです。父も2,3口しか食べなくなり、日に日にやせ細っていきます。
体力がなくなるので、口を動かしても言葉にならず、何を言いたいのか分かりません。アイウエオ表を作ってみたけれど、指さす力も残っていません。
看護師さんが根気よく聞き取ってくれたのは、自分がこれからどうなるのか、家族に迷惑をかけてすまない、ということでした。
最後の最後まで、頭脳明晰で、かえってそれが辛そうでした。
前述したように、点滴を止めると1週間で息を引き取ると言われていますが、中には1か月持つ人もいるそうです。父は言われた通り、7日目に逝きました。2日前から看護師さんに「今晩かもしれませんので、心の準備をしてください」と言われていたので、取り乱すことはありませんでした。
看護師さんにエンジェルケア(死後の処置、保清、化粧)を施していただき、男前に戻りました。
自宅看取りを選んで良かった
11年前に母は病院で亡くなりました。
今回は病院のコロナ対策で見舞いが出来なかったので、自宅看取りを選びましたが、これで良かった。
母は認知症だったのですが、意識がハッキリしていた父は、病院で最後まで不自由で不快な思いをするのは辛かったと思います。
私としても、人がどのように最期を迎えるのか、体感することが出来ました。
看護師さんから頂いた、自宅看取り用の分かりやすい説明書を読み、どんな状態を経るのか理解し、毎日看護師さんから様子を聞き、少しずつ心の準備ができました。
家族に囲まれて最期を迎えることが最善だとは言えませんが、一つの選択肢です。
どなたかの参考になれば、幸いです。